『精霊の守り人』ナユグとは?神と精霊、人間界との関係を追ってみました
スポンサーリンク
スポンサーリンク
出典:精霊の守り人・「守り人」シリーズ 公式サイト | 上橋菜穂子 - 偕成社
人間界と重なり合って存在する世界、ナユグ。
そこに住む神と精霊(ニュンガ・ロ・イム、ラルンガ、山の王、夢を誘う花、
ナユーグル・ライタ、タルハマヤ)、人間との関係を追ってみました(ネタバレ)。
= 目 次 =
ナユグの世界
呼び名
どの国でもナユグの存在は知られていますが、国によって呼び方は異なります。
ナユグ : 新ヨゴ皇国
ナユーグル: サンガル王国
ノユーク : ロタ王国、カンバル王国
『精霊の守り人』の舞台となる国については、こちらをご覧ください。
水の世界
ナユグは水の世界です。
ナユグの神や精霊は、水や泥の中に住んでいます。
魚も住んでいます。
重なり
ナユグの世界は、人間界と重なって存在しているとされます。
人間界では泉である場所がナユグでは泥の沼だったりと、重なる空間でも環境は
異なっています。
ナユグとのつながり
普通の人間にはナユグは見えませんが、呪術師やごく少数生まれながらにナユグが
見える人間がいます。
雲の精霊の産卵、山の王の脱皮、夢を誘う花の受粉など、ナユグで数十年毎に起きる
精霊たちの営みが、人間界で具体的な現象となって現れます。
精霊の卵が人間の子どもの体に託されたり、ナユグに咲く花の番人と人間の間にできた子が、人間を花の夢に誘ったりと、深い関わりを持っています。
数百年に1度のナユグの春の到来で、人間の自然界も暖かくなります。
時間の流れ
ナユグでの時の流れは雄大です。
雲の精霊ニュンガ・ロ・イムが人間の子どもに卵を産むのは、ほぼ100年に1度。
ナユグの春は数百年毎に訪れ、100年以上も続きます。
ナユグに春が訪れると、人間界も影響されて暖かくなります。
神や精霊たちの婚礼の季節でもあります。
ナユグの神と精霊
『守り人シリーズ』では作品毎に、神や精霊とその守り人が登場します。
『精霊の守り人』ニュンガ・ロ・イムとラルンガ
ニュンガ・ロ・イムは雲(水)の精霊で、海に住んで雲をつくります。
100年に1度、「新ヨゴ皇国」で人間の子どもに卵を産みます。
卵がラルンガに食べられると、人間界は大干ばつに見まわれてしまいます。
ナユグの水の民がニュンガ・ロ・チャガ〈精霊の守り人〉となったチャグムにこう語り
かけます。
「無事に、ニュンガ・ロ・イム〈水の守り手〉におなり、ニュンガ・ロ・チャガに抱かれている卵よ。早く雲を吐き、あまい水を、この地とかの地に降らせておくれ・・・・・・。」
ニュンガ・ロ・イムは、人間界とナユグの両方に水の恵みをもたらす精霊のようです。
ラルンガは土の精霊で、ニュンガ・ロ・イムの卵を食べる天敵です。
ナユグの泥の沼に住んでいます。
『闇の守り人』山の王
「カンバル王国」のあるユサ山脈の地下の王で、巨大な透明の水蛇(水生の蛇)。
ほぼ20年毎に脱皮します。
地下の槍舞いの儀式で弔われた祖霊が、ルイシャという高価な宝石として岩肌に結晶
します。
山の王が脱皮のために体を岩にこすりつけると、ルイシャが鱗に付いて抜け殻に
残ります。
ルイシャは貧しい「カンバル王国」に恵みを与えてくれます。
『夢の守り人』夢を誘う花
52年毎に花をつけ、たくさんの人間の夢によって受粉して種が実ります。
新ヨゴ皇国の湖の中にある宮殿の中庭に咲き、花の番人と人間の間にできた子が、
人間を花の夢へと誘います。
『虚空の旅人』ナユーグル・ライタ
サンガル王国で、ナユーグルの住人のことを言います。
時に子どもに取りつき、その子(ナユーグル・ライタの目)が人の世で悪しきものを
見れば、神に滅ぼされると伝えられてます。
『神の守り人』 タルハマヤ
ナユグの春の訪れとともに、ロタ王国に聖なる川が流れてきます。
その流れに乗ってやってくる殺りくの神。
その力は強大で、過去、神とひとつになった娘とその氏族がロタの地を征服しました。
数百年ぶりに訪れたナユグの春とともにその神が復活します。
原作者の上橋菜穂子さんのことば
上橋さんは『守り人シリーズ』のガイドブックで、ナユグについてこう語っています。
ふつうの人々には、確かにかんじられない・・・・・・しかし、そこに確かに在る異界。人にとっては、〈精霊〉や〈神〉に思える存在がうごめく異界と、人の世界が触れあうときに生じる不思議・・・・・・そういう物語をかいてみたい、と思ったのです。
『天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編』巻末の他の作家さんとの対談で、次のように
言っています。
中学校の頃、私はこの世界のすべてがたくさんの糸で繋がって動いているようなイメージがある、と友達に話したことがあります。
引用:上橋菜穂子『天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編』(新潮社、2011年)
ナユグの不思議な世界は、 上橋さんのこんな思いとイメージから生まれたようです。
まとめ
ナユグに住む神や精霊たちは、正義や道徳や精神性といった観念について示唆すること
もなく、人間界との間に上下関係や血縁関係、敵対関係もありません。
殺りくの神タルハマヤといえども、殺りくの力そのものとして描かれ、意思を持っては
いません。
その強大な力をどう扱うか、人間のあり方がテーマとなって物語はすすみます。
人間界とは別の自然体系・生態系が存在し、時としてその営みが人間界に物理的影響を
与える、ナユグと人間界はそのような関係のようです。
ナユグの不思議さと不可解さは、人間の憶測や誤解が絡んで、物語展開の絶妙な触媒に
なっています。
また、ナユグに余計な精神性が持ち込まれていないことで、人間ドラマがより深く描き
込まれているように思います。